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「尉繚子 制談篇」より一部抜粋
むかしから、軍の統制を維持するため、兵卒にしても兵車にしても、きちんと部隊編成を行ってきた。
ところが、攻撃命令が下ったとたん、まっさきに敵陣にはせ向かうのは、きまって豪勇の士ではないか。まっさきに討死にするのもまた豪勇の士ばかりではないか。これでは、せっかく敵をやっつけても味方の損害はそれに百倍し、戦えば戦うほど敵を利するだけだ。だが、凡庸な将はこれをどうすることもできない。
また、いったん兵役に服しながら脱走したり、いざ戦いというまぎわになって敵前逃亡を企てる者がいる。こういう軍隊は戦力とはなりえない。だが、凡庸な将はこれをどうすることもできない。
敵と対陣してまず威力を発揮するのが弓矢であり、白兵戦となって威力を発揮するのが矛と戟である。ところが攻撃命令が下ったのに、兵卒はかけ声ばかりでいっこうに撃って出ず、矢を捨て矛を折り、戟をこわきにかかえこんだまま、人の後からついて行こうと、まわりの動きばかりうかがっている。これでは、戦わずして敗れることは明らかだ。だが、凡庸な将はこれをどうすることもできない。
さらに、兵卒も兵車も隊伍を乱し、せっかく配置した機動部隊も、隊長の命令を無視して撤退し、全軍がなだれをうって敗走する。だが、凡庸な将はこれをどうすることもできない。
もし将帥が以上の四つの欠点を克服すれば、意のままに配下の軍を動かして、いかなる高山、いかなる大河も踏破し、いかなる堅陣も攻め落とすことができる。それを克服せずに勝利を望むのは、船もないのに長江大河を渡ろうとするようなもので、まるで問題にならない。