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「元気でな――アリス」
私は最後にそう言って、背を向けた。
振り向かないまま、行くつもりだった。
だが――
「ラグ」
か細い呼びかけに、振り返らずにはいられなかった。
これほど自分の行いを罵りたくなったことも、初めてだ。
顔を上げ、私を見つめる彼女に、もう笑みはない。
ただその瞳に、こぼれ落ちそうなほどの涙を浮かべていた。
刺される痛みとは、こういうものなのだろうか。
そして、苦痛に耐える顔というのは――
だが。
私は、微笑んでいた。
自然に浮かんだ、微笑みだった。
そして踵を返し、二度とは振り返らなかった。
リロイはなにも言わず、歩を進める私に並んだ。しかしその顔には、満足げな表情が浮かんでいる。
リロイは、さよならを言ってもらえなかったのだろうか。
私は黙然と歩きながら、ふと、最後の食事のあとに飲んだ紅茶の味を、思い出していた。
あの、不味い味を。
もしも今、飲んだとしたら――
どんな味が、するのだろうか。